2013年6月7日金曜日

138『ふたりのロッテ』エーリヒ・ケストナー作 池田香代子訳

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おたがいを知らずに別々の町で育ったふたごの姉妹ルイーゼとロッテ.
ある夏,スイスの林間学校で,ふたりは偶然に出会います.
父と母の秘密を知ったふたりは,別れた両親を仲直りさせるために,
大胆な計画をたてるのですが…….待望の新訳.
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これも新訳。「待望の新訳」だったのか。もう半世紀も前の翻訳ではやっていけない、ということだな。どんどん新しい訳がでて読みやすくなっている。翻訳の質はたしかに上がっていると思う。『宝島』のごつごつした訳、『大草原の小さな家』の「とうちゃん」はやっぱりひっかかるものがあったからな。高橋訳の硬い訳文も嫌いじゃなかったんだけど、新訳を読むとやっぱり読みやすい。今じゃナツメグを「ニクヅク」とはいわないからな。

この本、ずっと『ふたごのロッテ』だと思っていた。それじゃネタバレになるからわざわざ『ふたりの』だったんだな。ストーリーは今読んでもおもしろい。ふたりが入れ替わるところなんて今でもはらはらする。お互いがおかあさんの写真を見るところも胸が詰まる。

数年前たまたまTVで古い『ふたりのロッテ』の映画をやっていた。お父さんの新しい恋人が本の印象通りのご婦人だったので笑った。子どもの頃はなんとも思わなかったけど、今にしてみると「おいおいお父さんの恋はそのままそっとしておいてやれよ」とも思うな。ま、そうならないようにいやなお金持ちの婦人にしてあるんだけどね。

097『あしながおじさん』ウェブスター/谷口由美子訳

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孤児院育ちの少女ジェルーシャは,奨学金を出してくれた「あしながおじさん」へ,
楽しい大学生活を綴ってせっせと送ります.返事をくれない「あしながおじさん」って
誰なのでしょう? 永遠の名作を新訳で.
○小学5.6年以上
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「あしながおじさん」はよく読んだ。何回読んだだろうか。いつも一晩で読んでしまう。読むと必ず温かい気持ちになる。毎回、ああ、もうどうして分からないのかなあ、と思いながら読む。アメリカの女子校の寄宿舎生活というのにもあこがれた。娘二人は高校からアメリカの寄宿舎に入ったんだけど、こんな生活だったのだろうか。

挿絵がいいんだよね。この絵はこの本でなくちゃ、というかもうこの絵しかないと思う。

あ、新訳が出ていたんだな。どんな訳になっているのか、また読み直してみなければ。

2013年6月3日月曜日

003『ながいながいペンギンの話』いぬい とみこ 作 大友康夫 画

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ペンギンの兄弟ルルとキキは、生まれたばかりというのに
元気いっぱい。両親のるすにこっそり家をぬけだして・・・・。
さむがりやでくいしんぼう、冒険好きの愛らしい主人公が、
氷と海の広がる白い世界で、たくましく成長します。
◯小学3・4年以上
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岩波少年文庫は1950年に創刊された。いぬいとみこはその時の編集者の一人であった。いぬいは同人誌に児童文学を発表していた。その本は「長い長い時間がかかり、また本らしい本になるまでに長い長い時間がかかった」(あとがき)。この本が岩波少年文庫に収録されたのは1979年、のちに新版として1990年に出版されている。その際、『星の王子さま』001、『長い長いお医者さんの話』002についで、(栄光の)003 番号がついた。

1950年代は南極探検の時代でもあった。国民、子どもたちの募金を元に南極観測船「宗谷」がまだ見たことがない南極へ出かけて行ったのがこの頃だ。私も氷に閉ざされた宗谷のことは新聞やラジオでよく聞いた。南極はその頃の私たちのフロンティア、今の宇宙と同じ輝きを持っていたのだ。そしてその長年の観測と調査の結果が新しいこの『ながいながいペンギンの話』に反映されている。ペンギンの抱卵、食性、移動などまるでそこでじっとペンギンの生活を見ているようだ。

産まれたばかりのペンギンの兄弟は、お母さんに「小石をつんだ」家から出てはダメですよと言われていたにもかかわらず、「ゆきのはらっぱへ」出て行ってしまう。あ、だめだめ。やっちゃダメダメ。子どもの本には必ず出てくる定番。やっちゃいけないと言われると必ずやって見たくなる、という。やっちゃダメなんだってば。子どものときはいつもそう思いながら、ハラハラしながら読んだものだ。

しかし、そこにはちゃんとした大人がいて、きちんとしかってくれるし、きちんと助けに来てくれる。子どもはちゃんとそうした大人に見守られているのだよ、という安心感がある。

この本には戦後間もない新しく若い時代の空気が感じられる。「くたびれはてているへいたいペンギン」に「ごうれいをかけつづける」皇帝ペンギンには旧日本軍隊の影が見える。自分の生き方を自分で選び取っていくという自立した生き方がここにはある。年取ったトトは「わたしは、おもいきって、このひとたちと、いってみます。」と捕鯨船に乗って遠い「おそろしいゆきあらし」のない国に行こうと決心する。一方、ルルは、懐かしいセイさんと一緒に行くことを拒否する。「ぼくは、キキやおおぜいのともだちをすてて、じぶんひとりだけ、いいところへなんかいくのはいやだ。」ルルは故郷に留まると自ら選ぶのだ。新しい時代の決意がここにある。