ペンギンの兄弟ルルとキキは、生まれたばかりというのに
元気いっぱい。両親のるすにこっそり家をぬけだして・・・・。
さむがりやでくいしんぼう、冒険好きの愛らしい主人公が、
氷と海の広がる白い世界で、たくましく成長します。
◯小学3・4年以上
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岩波少年文庫は1950年に創刊された。いぬいとみこはその時の編集者の一人であった。いぬいは同人誌に児童文学を発表していた。その本は「長い長い時間がかかり、また本らしい本になるまでに長い長い時間がかかった」(あとがき)。この本が岩波少年文庫に収録されたのは1979年、のちに新版として1990年に出版されている。その際、『星の王子さま』001、『長い長いお医者さんの話』002についで、(栄光の)003 番号がついた。
1950年代は南極探検の時代でもあった。国民、子どもたちの募金を元に南極観測船「宗谷」がまだ見たことがない南極へ出かけて行ったのがこの頃だ。私も氷に閉ざされた宗谷のことは新聞やラジオでよく聞いた。南極はその頃の私たちのフロンティア、今の宇宙と同じ輝きを持っていたのだ。そしてその長年の観測と調査の結果が新しいこの『ながいながいペンギンの話』に反映されている。ペンギンの抱卵、食性、移動などまるでそこでじっとペンギンの生活を見ているようだ。
産まれたばかりのペンギンの兄弟は、お母さんに「小石をつんだ」家から出てはダメですよと言われていたにもかかわらず、「ゆきのはらっぱへ」出て行ってしまう。あ、だめだめ。やっちゃダメダメ。子どもの本には必ず出てくる定番。やっちゃいけないと言われると必ずやって見たくなる、という。やっちゃダメなんだってば。子どものときはいつもそう思いながら、ハラハラしながら読んだものだ。
しかし、そこにはちゃんとした大人がいて、きちんとしかってくれるし、きちんと助けに来てくれる。子どもはちゃんとそうした大人に見守られているのだよ、という安心感がある。
この本には戦後間もない新しく若い時代の空気が感じられる。「くたびれはてているへいたいペンギン」に「ごうれいをかけつづける」皇帝ペンギンには旧日本軍隊の影が見える。自分の生き方を自分で選び取っていくという自立した生き方がここにはある。年取ったトトは「わたしは、おもいきって、このひとたちと、いってみます。」と捕鯨船に乗って遠い「おそろしいゆきあらし」のない国に行こうと決心する。一方、ルルは、懐かしいセイさんと一緒に行くことを拒否する。「ぼくは、キキやおおぜいのともだちをすてて、じぶんひとりだけ、いいところへなんかいくのはいやだ。」ルルは故郷に留まると自ら選ぶのだ。新しい時代の決意がここにある。
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