2015年7月21日火曜日

135『牛追いの冬』マリー・ハムズン 石井桃子訳

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ノルウェー,ランゲリュード農場の4人きょうだいは冬を迎えました.クリスマスの休みは,町から来た友だちもいっしょに,スキーやボーイスカウトごっこを して,たちまち過ぎていきます.雪がだんだんとけてきたある日,末の妹マルタが病気に…….美しい自然と愛情ゆたかな家庭から生まれた,『小さい牛追い』 の続編. 
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楽しい夏はすぐ過ぎて、秋は学校が始まる季節。長男のオーラは上級学校へ、次男のエイナールはいやいや小学校へ。今期は妹のインゲリドとマルタも一緒です。エイナールの学校嫌いは思わず笑ってしまう。本当に苦手でいやなんだなあ。

学校は新しい先生が来てエイナールの苦行が始まります。家では生まれたばかりの仔牛がクリスマス用に殺されてしまうことに。男の子の兄弟は一計を案じます。(しかしあんなに元気で人気者だったイノシシという名の豚はしっかりと肉になってしまうのだ)

町から隣の家の従兄弟が来たり、クリスマスの贈りものがあり、クリスマスの仮装隊があり、そしてマルタの肺炎があり (絵本作家・瀬名恵子さんの後書きによるとマルタの台詞は最初は 「あたしが、肺炎したこと、忘れなさんな。」>「あたしが、肺炎したこと、忘れないで」>で、今回の訳では「気をつけなさいーーあたしは、肺炎したんだから!」になってました) 最後にオーラの密かな恋が進展します。

楽しくて思わずにこにこしてしまう4人兄弟の話です。どうしてこれ、少年のころ読んでなかったんだろう。そのころは『山のクリスマス』と『アルプスのきょうだい』だったからなあ。地味なんだけどじんわりとよくなってくる、そういう本です。




2015年6月29日月曜日

134『小さい牛追い』マリー・ハムズン 石井桃子訳


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ノルウェーの農場に住む四人きょうだいは、両親といっしょに村じゅうの牛をあずかって、山の牧場で夏をすごします。ゆたかな自然の中で遊び、はたらき、のびのびと生きる子どもたちの素朴な日常を、あたたかく描いた名作。
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岩波少年文庫が1950年に創刊された時発刊された5冊の中の一冊。その5冊はスティーブンス『宝島』、ディケンズ『クリスマス・キャロル』、ケストナー『二人のロッテ』、ウェブスター『あしながおじさん』、そしてこのハムズン『小さい牛追い』。

この本は読んだ記憶が全くないな。ノルウェーの牛追いの話なんて少年の私にはときめかせるものを持ってなかったにちがいない。今回初めて読んだ。子どもたちの生活がいきいきと描かれている。この作者は、1920年にノーベル文学賞を取ったノルウェーの作家、ハムズンの夫人。ハムズンは原始的な農耕生活を提唱し自らも実践した。だからこの話の「おかあさん」とは実際にこの牛追いの生活をしていたハムズン夫人だったのだし、子どもたちもハムズン家の子どもたちだったのだ。

ランゲリュード農場の子どもたちは、10才のオーラ、8才のエイナールの男の子とインゲリドとマルタは妹たちの四きょうだい。兄弟はなにかというと喧嘩をしたり、競い合ったりしながらも夏の間に大きく育っていく。夏の間の冒険も経験します。しかし、彼らはりっぱにうちの仕事の手伝いもするのです。森の中のあそびと山の仕事がていねいに描かれている。

家族は夏になると村じゅうの牛と山羊を預かって山小屋へと向かう。そこでひと夏を過ごす。山には大きなシラカバがあり、沼があり、新旧の牧場があり、子どもたちは山を駆け回って牛を追い、川にはまり、森で野宿したり、のびのびと育っていく。ハラハラする冒険もあるんだけど、おとなたちはじっと我慢づよく子どもたちを見守りる。ああ、私ならここで手を出すなあというところでも、じっと見守るだけ。こういうところがノルウェー人なんだろうなあ。

訳は石井桃子 翻訳で読みやすい。が、通貨が10円、100円というのは違和感があるなあ。未だEUに加入していないノルウェーでは通貨単位はクローネ。100分の1クローネはオーレ。クローネ、オーレでよかったんじゃないかな。

この本には春・夏の『小さい牛追い』に引き続いて、続編の秋・冬の『牛追いの冬』がある。谷の奥の大沼地で出会った少女との再会もあるらしい。続編もたのしみ。



2015年6月8日月曜日

515 『長い冬』 ワイルダー/谷口由美子訳

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ローラたちの一家が住む大草原の小さな町を,長くて厳しい冬がおそう
-大自然とたたかいながら力強く生きた,アメリカ開拓期の人々の生活が
いきいきと描かれる.
○中学生から
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大草原の小さな家のワイルダー一家が、七ヶ月にも及ぶ長く厳しい冬を家族で乗り越えて行く。シリーズ中のベストだと思う。長く厳しい冬。食料も燃料も無くなっていく中、家族は力を合わせて、生きていく。感動的です。信州安曇野も寒くてマイナス20度にもなりますが、『長い冬』ではマイナス40度。想像を絶します。汽車も止まってしまい、食料調達の道も絶たれてしまう。その危機をアルマンゾ兄弟が乗り越えていく。後のローラの夫になるアルマンゾの活躍に拍手。

新訳が素晴らしい。旧訳が「とうちゃん」で乱暴だったのでこのシリーズは読み通していなかった。「とうさん」とようやく丁寧でやさしい訳が出たので、シリーズを通して読んでみよう。

ガース・ウィリアムの挿絵がいいなあ。この人の絵でないとローラという気がしない。

2015年1月24日土曜日

516『大草原の小さな町』ローラ・インガルス・ワイルダー 谷口由美子訳

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前の年のつらかった冬の経験を生かして,ローラたち一家は町に移るが,
多くの人びとにまじって町なかで暮すことは,農場育ちの4人姉妹にとって
楽しいことばかりではない.
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前作『長い冬』をしのいだローラの一家は農地の家から町の家へと引っ越す。ローラは14歳、しっかりした少女。洋服屋さんを手伝って手間賃をもらい、とうさんの手伝いも妹たちの面倒もよく見る。ローラはしっかり者だが、この年の少女らしくファッションに憧れ、サイン帳や名刺に夢中になり、同い年の女の子に嫉妬もする。

ローラの、少女らしい功名心、負けん気、そして自分の体型や顔かたちにも敏感なところがほほえましい。そういう所を素直に書いているところもこのシリーズのいいところ。ただのいい女の子ではなく、いつの時代でも、どこでもいそうなティーンの女の子なのがいい。でも、この時代の15歳はしっかりしてるなあ。きちんと自分でお金を稼ぐことを考えているし、嫌な先生にははっきりと反旗をひるがえす。立派です。

でも、まだ女の子。アルマンゾが密かに思いを寄せていることに全く気がついていない。これだけアタックされれば気がつきそうなものなのにな。ま、それは次巻のお楽しみ。

メアリの大学行き、クリスマスのプレゼント、学校の行事、先生との対立、そして楽しい町の行事。この巻もアメリカ開拓時代の大らかでたくましい若い国の力が見て取れる。

新訳が読みやすい。ガースの挿絵もほのぼのする。



2013年6月7日金曜日

138『ふたりのロッテ』エーリヒ・ケストナー作 池田香代子訳

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おたがいを知らずに別々の町で育ったふたごの姉妹ルイーゼとロッテ.
ある夏,スイスの林間学校で,ふたりは偶然に出会います.
父と母の秘密を知ったふたりは,別れた両親を仲直りさせるために,
大胆な計画をたてるのですが…….待望の新訳.
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これも新訳。「待望の新訳」だったのか。もう半世紀も前の翻訳ではやっていけない、ということだな。どんどん新しい訳がでて読みやすくなっている。翻訳の質はたしかに上がっていると思う。『宝島』のごつごつした訳、『大草原の小さな家』の「とうちゃん」はやっぱりひっかかるものがあったからな。高橋訳の硬い訳文も嫌いじゃなかったんだけど、新訳を読むとやっぱり読みやすい。今じゃナツメグを「ニクヅク」とはいわないからな。

この本、ずっと『ふたごのロッテ』だと思っていた。それじゃネタバレになるからわざわざ『ふたりの』だったんだな。ストーリーは今読んでもおもしろい。ふたりが入れ替わるところなんて今でもはらはらする。お互いがおかあさんの写真を見るところも胸が詰まる。

数年前たまたまTVで古い『ふたりのロッテ』の映画をやっていた。お父さんの新しい恋人が本の印象通りのご婦人だったので笑った。子どもの頃はなんとも思わなかったけど、今にしてみると「おいおいお父さんの恋はそのままそっとしておいてやれよ」とも思うな。ま、そうならないようにいやなお金持ちの婦人にしてあるんだけどね。

097『あしながおじさん』ウェブスター/谷口由美子訳

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孤児院育ちの少女ジェルーシャは,奨学金を出してくれた「あしながおじさん」へ,
楽しい大学生活を綴ってせっせと送ります.返事をくれない「あしながおじさん」って
誰なのでしょう? 永遠の名作を新訳で.
○小学5.6年以上
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「あしながおじさん」はよく読んだ。何回読んだだろうか。いつも一晩で読んでしまう。読むと必ず温かい気持ちになる。毎回、ああ、もうどうして分からないのかなあ、と思いながら読む。アメリカの女子校の寄宿舎生活というのにもあこがれた。娘二人は高校からアメリカの寄宿舎に入ったんだけど、こんな生活だったのだろうか。

挿絵がいいんだよね。この絵はこの本でなくちゃ、というかもうこの絵しかないと思う。

あ、新訳が出ていたんだな。どんな訳になっているのか、また読み直してみなければ。

2013年6月3日月曜日

003『ながいながいペンギンの話』いぬい とみこ 作 大友康夫 画

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ペンギンの兄弟ルルとキキは、生まれたばかりというのに
元気いっぱい。両親のるすにこっそり家をぬけだして・・・・。
さむがりやでくいしんぼう、冒険好きの愛らしい主人公が、
氷と海の広がる白い世界で、たくましく成長します。
◯小学3・4年以上
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岩波少年文庫は1950年に創刊された。いぬいとみこはその時の編集者の一人であった。いぬいは同人誌に児童文学を発表していた。その本は「長い長い時間がかかり、また本らしい本になるまでに長い長い時間がかかった」(あとがき)。この本が岩波少年文庫に収録されたのは1979年、のちに新版として1990年に出版されている。その際、『星の王子さま』001、『長い長いお医者さんの話』002についで、(栄光の)003 番号がついた。

1950年代は南極探検の時代でもあった。国民、子どもたちの募金を元に南極観測船「宗谷」がまだ見たことがない南極へ出かけて行ったのがこの頃だ。私も氷に閉ざされた宗谷のことは新聞やラジオでよく聞いた。南極はその頃の私たちのフロンティア、今の宇宙と同じ輝きを持っていたのだ。そしてその長年の観測と調査の結果が新しいこの『ながいながいペンギンの話』に反映されている。ペンギンの抱卵、食性、移動などまるでそこでじっとペンギンの生活を見ているようだ。

産まれたばかりのペンギンの兄弟は、お母さんに「小石をつんだ」家から出てはダメですよと言われていたにもかかわらず、「ゆきのはらっぱへ」出て行ってしまう。あ、だめだめ。やっちゃダメダメ。子どもの本には必ず出てくる定番。やっちゃいけないと言われると必ずやって見たくなる、という。やっちゃダメなんだってば。子どものときはいつもそう思いながら、ハラハラしながら読んだものだ。

しかし、そこにはちゃんとした大人がいて、きちんとしかってくれるし、きちんと助けに来てくれる。子どもはちゃんとそうした大人に見守られているのだよ、という安心感がある。

この本には戦後間もない新しく若い時代の空気が感じられる。「くたびれはてているへいたいペンギン」に「ごうれいをかけつづける」皇帝ペンギンには旧日本軍隊の影が見える。自分の生き方を自分で選び取っていくという自立した生き方がここにはある。年取ったトトは「わたしは、おもいきって、このひとたちと、いってみます。」と捕鯨船に乗って遠い「おそろしいゆきあらし」のない国に行こうと決心する。一方、ルルは、懐かしいセイさんと一緒に行くことを拒否する。「ぼくは、キキやおおぜいのともだちをすてて、じぶんひとりだけ、いいところへなんかいくのはいやだ。」ルルは故郷に留まると自ら選ぶのだ。新しい時代の決意がここにある。